『百年恋歌』


今夜は、雨の一日にふさわしい 映画の余韻を綴りたい。

『百年恋歌』
邦題は『百年の恋』
台湾巨匠 ホウ・シャオシェン監督、
主演チャン・チェン、スー・チー。

1966年 1911年 2005年 の異なる時代で出会いを繰り返す 宿命の恋人たちを描くオムニバス形式の映画。

私が好きなのは 1966 。兵役につく青年とビリヤード場で働く若い女性の恋。

青年は出逢ったばかりの彼女に想いを残しながら任地へ赴く。巧くはないが、夜の更けるのも忘れて楽しんだビリヤード場での珠玉のひとときの思い出を胸に扉の外へ…。
重い木の扉を名残惜しそうにゆっくりと閉じる彼女の細い肩が、薄明かりに照らされて陶器のように光る。

1960年代の花柄のパフスリーブ《いわゆる提灯袖》が愛らしく、スレンダーな彼女の肢体はまるでカモシカのように美しい。 暫くして青年から手紙が届く…恋を告げる簡潔な文面。 はにかむ彼女。しかし、その後仕事場を変わってしまうことに。。。

貴重な休暇の日に青年は駆けつける。 あのビリヤード場へ
彼女に逢うために

しかし そこに彼女はいない。 汽車に乗り バスを乗り換え、尋ね回ってやっと青年は彼女の母の元へ辿り着く。

そしてようやく 新しいビリヤード場で働く彼女と逢えたのは夜だった。

ビリヤードに興ずる人々のさざめきの片隅でただただ見つめ合い 微笑み合い 佇む2人。

『食事しない?』と彼女。だが、青年は明朝には任地へ戻らねばならないという。九時台の汽車に乗らねばならない。

想い合う2人に 時の過ぎゆくサラサラという砂時計の音が聞こえ始める。

屋台で簡単な食事をし、駅に走る2人。
乗らねばならない汽車は既に出てしまった…。 次は…?。切なそうに時刻表を仰ぎ見る彼女。

いつ頃からか降り出した小雨に、それぞれ傘を開けた。

2人は傘をさして並んで立つ。

夜の雨が優しく優しく傘を叩き、闇はふわりと2人を包む。
2人とも右手に傘を持っていた
暫くして、青年が左手に傘を持ち替えた。

画面には 彼女の左手にためらいがちに触れていく青年の右手が大きく映し出される。

はじめは 偶然のように ちょんと

それから そっとそっと 指を添わせ

小指 薬指 とからめあって

ついに 2人はかたくかたく 握りあうのだった…             セリフも、登場人物も少ない短編。ラブシーンもない。ただ、曲名は知らないが、懐かしいポピュラーソングがずっと流れていて すれ違う2人の束の間の逢瀬をひととき華やいだものにしている。

恋をしりそめた あのころのときめきを、雨音の調べにのせて感じたひとときだった。

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